Introduction to Japanese Study - 日本語学習入門
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4 (3)では、(1)に比べて「きっさてんで」が増えています。「きっさてん」は名詞でcoffeeshop、「で」が助詞で、atのような意味です。 (2)(3)を合わせて、次のように言うこともできます。 (4)田中さんは佐藤さんときっさてんでお茶を飲みました。(Tanaka drank tea at a coffeeshop with Sato.) このように、《「名詞+助詞」がいくつか並んで、最後に動詞が来る》というのが、日本語の文の基本的な仕組みです。助詞は、その名詞の、文の中での役割を示します。「田中さん」は主語、「お茶」は目的語、「佐藤さん」は行為のパートナー、「きっさてん」は行為が行われる場所ですね。これが、それぞれの名詞の「役割」ということです。その名詞が文の中でどんな役割を果たしているのかを、名詞の後の助詞が示すわけです。 今述べたような名詞の「役割」は、どの言語でも、何らかの方法で示しています。英語や中国語では、どうしているでしょうか。主語や目的語については語順であらわし、その他の「役割」の名詞については、前置詞でそれをあらわしています。これに対して、日本語では、どの名詞の後にも助詞が付いて、その役割を示すわけです。前置詞prepositionに対して、名詞の後に付く日本語の助詞を後置詞postpositionと呼ぶことがあります。 ついでにいえば、名詞は漢字で書くことが多いのですが、助詞は必ずひらがなで書かれます。漢字の後のひらがなが大事な文法的情報をあらわすのだと、まず認識してください。 以上が、日本語の文の仕組みの要点です。SOVとか後置詞とか、変わった言葉だなあと思う人もいるかもしれませんね。しかし、決して変わった言葉ではありません。実は、世界の言語の中で、SOVの言語は半数近くを占めるという報告があります。英語・中国語・ロシア語……と、たまたま有力な言語のほとんどがSVOなので、SOVが珍しく感じられてしまいやすいのですが、世界的なレベルで統計的に見れば、SOV言語はいわば二大勢力のうちの一つなのです。 また、基本語順がSVOなら前置詞が使われやすく、SOVなら後置詞が使われやすいという傾向も、一般言語学的に指摘されています。つまり、世界の言語の代表的な2つのタイプとして「SVO,前置詞」型と「SOV,後置詞」型とがあり、日本語は韓国語やトルコ語とともに後者のタイプに属するのです。決して変わった言葉ではなく、「もう一つのタイプ」なのです。母語が「SVO,前置詞」型である人にとっては、ちょっと大変かも しれませんが、全く新しい言語世界が広がるという意味で、日本語の学習はとても豊かな体験になることでしょう。

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