Introduction to Japanese Study - 日本語学習入門
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というやりとりを覚えていますか。日本語ではyouもIも表現されていませんが、意味は通じます。ただし、(1)(2)の場合、確かに、(1)の主語はyou、(2)の主語はIだという可能性が高いものの、理屈の上では、ほかの主語と解釈できる可能性もあります。そこで、敬語を使って と言えば、主語はそれぞれyou,Iだということが、一層はっきりします。 (3)の動詞「いらっしゃいます」(辞書形は「いらっしゃる」)はgoという意味の敬語です。敬語の中にもタイプがあるのですが、「いらっしゃる」は尊敬語subject honorificationというタイプの敬語で、二人称者を主語として使うのが最も一般的です。一方、(4)の「まいります」(辞書形は「まいる」)は、やはりgoの意味の敬語ですが、こちらは謙譲語humble expressionというタイプで、一人称者を主語として使うのが最も一般的です。そこで、(3)(4)のやりとりは、主語を言わなくても、それぞれ、you、Iが主語だとわかるのです。 まあ、さらにいろいろな場合を考えれば、you, Iではなくyour husband, my husbandだったりする可能性もあるのですが、その場合にはそれなりの文脈が必要で、特別な文脈なしに(3)(4)のようなやりとりをするとすれば、主語はそれぞれyou,Iに決まると言ってよいでしょう。 敬語には、このように、表現されない主語を暗示する効用もあるのです。いわば一種の人称接辞的な役割を果たしているわけで、その意味でも、主語をはじめ名詞を言わずにすませることが多い日本語には欠かせないものなのです。敬語と、さまざまな言語で見られる人称変化・人称接辞とは、もちろん完全に同じではありませんが、このように似ている面もかなりあるので、そういう目で敬語を勉強してみませんか。 (1) いつ大使館へ行きますか。(When will you go to the embassy? ) (2) あした行きます。(I'll go tomorrow.) (3) いつ大使館へいらっしゃいますか。 (4) あしたまいります。 主語の代わりの敬語 「やれやれ……」と思う人もいることでしょうが、実は、敬語にはこんな効用もあるのです。つまり、「主語を言わずに、意味が誤解なく通じるのだろうか」という冒頭の問題は、実は、「敬語を使うことによってyes」という面があるのです。「日本語って、どんな言葉?」のページで、「わかっている名詞(+助詞)は言わなくてよい」という例としてあげた、 24

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